<鳥の話> 十姉妹とインコと鳩と、私の懺悔

十姉妹

もうずいぶん昔のことである。小学一年生になっていた頃だろうか。それより以前かもしれない。

母に連れられて、ホームセンターに行った。併設されているペットショップで犬や猫などの動物たちを眺めることが、母も私も好きだったように思う。

鳥なら飼ってもいいよ、という母の言葉に興奮した私は小鳥がいるコーナーに向かい、色とりどりな鳥たちを物色した。母との意見も合い、三羽の十姉妹ジュウシマツにした。スズメのような小ささが可愛かった。
店員に飼い方を教わり、鳥かごや餌などを買ってわくわくしながら家に帰った。

毎日十姉妹を眺めていた。一羽一羽模様が違って、顔つきも違う。目を閉じて眠っている姿もかわいいけれど、私は私になついて欲しかった。ケージの扉を開けて頭を触ろうとする。キビみたいな粒状の餌を水でふやかしてスポイトで吸い取り、直接くちばしに餌を持っていく。それを食べてくれる十姉妹の仕草が私になついているようで嬉しかった。

そんな日を続けたある日、十姉妹は揃ってまったく餌を食べなくなった。
どうしたのかな?病気かな?食べないと死んじゃうよ、と私は無理矢理に餌をくちばしに持っていき、反射的に開いた口に餌を入れていた。

よく見ると十姉妹の喉は餌の粒でパンパンに膨れ、膜のように薄い肌から餌が透けて見えていた。数日後、三羽の十姉妹は死んでいた。

黄色いインコ

そんなひどいことをしたにも関わらず、今度は餌をやり過ぎないようにちゃんと育てるんだよ、と、また母とホームセンターに行った。

嫌な記憶を消すかのように色鮮やかな黄色いインコと青いインコにした。餌を与え過ぎないよう、触り過ぎないよう気をつけた。

でも、そのうちに鳥かごから出してみたくなった。部屋の戸をすべて閉め切ってから二羽のインコを取り出した。飛ぶことを知らない鳥は、羽をバタバタさせて解放され喜んでいる姿のように映った。
いつしか鳥かごから出すことが私の楽しみになっていた。

冬が近づき、居間に炬燵が設置される頃、いつものように鳥かごから二羽のインコを取り出し、飛べるようになろうねと訓練していた。青いインコは天井に届くほどに成長している。

嬉しい反面、やばい、逃げてしまうかもと察した。部屋の戸を閉めていなかった私は青いインコを追いかけるよう炬燵の回りをぐるぐるぐるぐると回っていた。捕まえてかごに入れた時、黄色いインコがいないことに気づく。

飛んでいる姿を見たことがない黄色いインコはどこに行ったの、と思った途端、脳裏に恐ろしい予感が走った。

予感どおり、炬燵の掛け布団の端の下で、ばたばたと走り回った私の足に潰されて死んでいた。自分の行為が怖かった。本当に酷い人間だと、物心ついた幼い私はその時はじめて自分を責めていた。

数年経ったある日、台所のテーブルに座っていると窓の外で神妙な顔つきをする母が見えた。

いつもの庭仕事かと思って見ていたが、いつもの母とは顔つきが違う。何かを真剣に凝視しているのだ。すると母はおもむろに両手を握り、ピッチャーのようにボールを投げる体勢をとり、腕を上げ始めた。何をやっているのかますます興味が沸いていると、本当にピッチャーのごとく腕を振り上げ、投げたのだ。

何やってるのお母さん?楽しいの?と、話し掛けに行こうと席を立った瞬間、母の顔は硬直したように目を見開き、茫然とただ立っているのだ。

事態がまるで読めない私は、台所の裏戸から母の元へ急いで駆け寄った。が、母は駆け寄る私に見向きもせず、投げた先の方角へ走っていくのだった。

母親に無視されたショックなのか、後を追わずに母の姿を見ていた。すると母は、突然、震えるような叫んでいるのかよくわからない言葉を発した。おかしくなったのかな?と思い、母に近づくと同時に私の目に飛び込んできたのは死んだ鳩だった。頭から血が流れ、目を開いたまま倒れていた。鳩の目が助けてと言っているようだった。

『お母さん…』

『どうしよう…、石が本当に命中しちゃった…。』

母にとってはほんの一瞬の、魔がさした行動だったのだろう。当たるとは思いもしなかったのだろう。でもそんな母がよくわからないと私は感じ始めたように思う。

自分のしてしまったことの悔やみきれない罪悪感は、今も残る。お互い責めはしない。それしかできない。


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