不快の端緒 シオランの救い

チェックついてるとこをやれってことですかぁ。
あるじゃないですかぁ。言ったじゃないですかぁ。
そうゆう言い方やめてもらっていいですかぁ。

派遣は社会的弱者!大丈夫、この会社は勝ち組だから!と、のたまう男。
その顔は醜い。

この場にいる自分は不運なのか幸運なのか、どちらでもない底にいる。

きゃーきゃーと甲高い声ではしゃぐ女。
最初のうちは可愛らしくも思えたが、今ではぎゃーぎゃーとしか聞こえない。わずらわしい。耳が痛い。強調する語頭と、否定語と、装った語尾に石を投げたい。

しかしこの時、このぎゃーぎゃー音が、うまくいかない自分を証明する。

カブトムシのようなSUVが、私の横をのっそり追い越す。
黒いホイールがアスファルトを掴むように走っていく。

能面のようなアウディが後ろからついてくる。
薄ら笑う中年男と目が合う。
ルームミラーをバタンと倒して拒絶する。

騒がしい車、あおる車、短気な車、曇り空と蟻の行進。

「不快感とはつねに、出来そこないの形而上学的体験にすぎないからである。」E.M.シオラン

ああ…!


「自分よりも苦しむことの少なかった者に、判断を下されるなどということをどうして受諾できようか。」E.M.シオラン

ああ…!!


E.M.シオラン『生誕の災厄』 新装版
紀伊國屋書店 (2021)



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